概要
東急9000系は、1986年に登場した東横線の通勤電車である。大きな突起すべき事項としては、新京成や日本国内の定期営業列車で初のVVVFインバータという次世代の主電動機を採用した。また、日本で初めてLED車内案内表示器搭載した電車である。
VVVFインバータは当時は開発されたばかりであったため、GTOサイリスタ方式であった。VVVFインバータといえば誰もが気にするのは音で、9000系は日立が最初に作った機器であったために変調が多いのが特徴である。当形式の音は昔から鉄道ファンに大変人気があり、引退の予定も出てしまったことから、注目の的となり始めている。この系列をもとに、東急でも1000系や2000系(後の9020系)といった派生グループが登場していく。
デザインは従来と同じく切り妻の車体である。また、歴代の東急車では初めての左右非対称顔で、貫通扉が正面向いて右側に片寄っていて、運転席が広くなっている。ライト類も四角となり、斬新なデザインとなった。
車内は東急車では初のボックス式のクロスシートが採用され、これらは車端部に設置された。9000系では8000系列より貫通路が狭く設置されている。車端部以外は歴代の東急車と同じくロングシート車である。また、7人掛けの席では、3人と4人で間に仕切りがついている。ドアはステンレス剥き出しの銀色で、即窓はJRの205系などと同じ配置となっている。
機器類
機器類は1両の中に主電動機と補助電源装置を積み込んでいる。しかし、デハ9600に関しては、デハ9400とユニットを組んでいおり、補助電源装置が存在しない。台車はTS-1004、1005型で、東急独自製の台車である。空気バネ台車で、車体の下に空気バネがよく見える。編成によっては先頭車の台車に軌条給油器が取り付けられているものもある。
パンタグラフは現在はシングルアームパンタグラフで、行先表示器はフルカラーLED方式である。これらは置き換えた8090系からの流用品である。冷房装置は8500系の8637編成以降のものと同じものを採用している。
車内では、ドア上に案内表示器が1両に4箇所ずつ設置されており、次駅表示を主に流すようになっている。案内表示器のないドア上はドアチャイム装置のみが取り付けられている。
過去の経歴
9001編成においては試作車であったため、数々の試運転のみが行われた。また、9000系は電動機やボルスタレス台車を東急で初採用したということもあり、登場初期のころは故障が多発していた。もっとも有名なのは、横浜駅の急カーブで台車との相性が悪く脱線してしまったことであろう。その後は修理され復帰している。
東横線の主力電車として長い間活躍をしており、車内更新工事や、スカート設置工事など(いずれも後述)延命改造が施されていたが、東横線の副都心線との直通運転開始による準備のため、東横線から引退をしていくこととなった。なお、9001編成においては、大井町線で車両不足に陥った時など幾度となく大井町線で暫定運用をしていた経歴もある。現在では全編成が大井町線所属で、編成表は以下の通りである。
東横線時代
9000系は、9007編成以外は東横線所属で東横線登場である。本来はのちに全編成目黒線へ転用して、メトロ南北線や都営三田線に乗り入れる予定であったが、改造費用などの観点から3000系を登場させることとなり、東横線で引き続き活躍することとなった。
現在では9000系といえば大井町線のイメージがあるが東横線では25年ほど活躍していたため、大井町線の活躍歴は実はまだ短い。とはいえ、東急では35年以上も活躍をしており、置き換え計画もでている。
東横線の9000系といえば、過去に数々広告を貼り付けて走った歴があり、最も代表的なものは9006編成と9013編成のTOQ-BOXの広告であろう。東急好きとして平成前期を生きてきた人は誰もが知っている広告であると思われる。
東横線時代では特急から各停まで幅広い運用に就いていたため、現在では見られない様々な姿を見ることができた。とくに日吉~綱島や、高架後の武蔵小杉~日吉間では110キロ走行も体験でき、高速走行している9000系の姿を見ることができた。
東横線時代の編成表は以下の通りである。
登場後の改造
冷房装置交換
2002年からは大容量クーラーへの換装が9002、9012編成で行われた。あくまでこれは試験的な役割で、本格的に交換が始まったのは2004年頃からである。どちらの編成も違うものを搭載しており、結果として9012編成に取り付けられたものが採用された。この新型クーラーは8500系の8637編成、8642編成でも採用された。新しいクーラーは、ステンレスカバーになっているため、一眼見て判別できる。また、交換とは言え、全部が交換された訳ではなく、編成によって交換されている箇所や号車が違っており、交換場所によっては編成が遠くからでも特定できてしまうほどでもあった。現在では、大井町線に転用してからは弱冷房車を除き、ほぼ全部が交換されてしまい、従来のものが珍しくなってしまった。また、編成によってのばらつきもなくなり、統一されている。
室内更新工事
2003年からは延命改造という名の、室内更新工事が行われている。主な内容は化粧板が白色から少々ピンクがかったものへ張替え、座席(モケット)を黄色と茶色のものから赤色のものへ交換、ドア上に案内表示器の取り付け、車番プレートをステッカー式に交換、7人掛け座席の真ん中の仕切り板を撤去し、手すりを増設、座席横の端部分の仕切り板の柄を白色から木目調のものに交換などである。案内表示器は各ドア上ではなく、1つおきに設置されている。また、表示器の設置されていないドア上にはドアチャイムの装置のみが取り付けられている。この更新改造は当初は全編成に行われるはずであったが、一部の編成のみで止まっている。ただし、全編成に置いて、ドア上の案内表示器とモケットの交換は行われているため、登場当初の黄色と茶色の座席を持った9000系は現存しない。今回は未更新車タイプと更新車タイプの2種類を説明する。
未更新車タイプ
座席の交換とともに、7人掛け席の真ん中部分の仕切り板が撤去され、手すりが増設されたタイプである。内装更新の全ての項目が施されなかった編成に行われた必要最低限のみの工事である。9000系ではこのタイプの内装を持つ編成が7編成おり、約半分はこのタイプの内装に該当する。
更新車タイプ
室内更新が全部完了しているタイプである。Aタイプの更新と、化粧板の交換、妻面とドア上の広告スペースの化粧板、仕切り板を木目調のものに交換、車端部座席横の肘置きの廃止改造を施したタイプである。Bタイプまでの車内と違って、木目調部分があることによって見栄えに少々温かみがある。4編成がこのタイプに該当しており、9000系の室内更新車の中では最大勢力を誇る。
その他の細かな改造
2005年になると、9012編成をはじめに、前面にスカートが取り付けられていった。当初の予定では9011から9013編成のみに取り付ける予定だったが、結局東横線所属の全編成に取り付けてしまった。スカートは伊豆急8000系のものと全く同じものである。また、同時期に田園都市線の2000系でもスカートの増設が行われている。2007年からは車外スピーカー設置工事を行い、全編成において施工された。
大井町線に転用されてからは、車内周りをメインに多少の改造が加えられている。ドア周りに黄色い案内板や防犯カメラの設置工事、車内照明のLED化工事などが行われている。外観上ではパンタグラフがシングルアームに、行先表示機がフルカラーLEDのものに交換されている。
編成ごとの差異
9001編成
9000系の試作車である。内装は座席のみの未更新車タイプである。桜木町廃止時の桜木町行き終電を担当したのはこの編成だった。また、登場してから何度か予備車として大井町線に期間限定で転用したこともあった唯一の編成でもある。東横線では、「さよなら東横線9000系」のHMまで取り付けた。5050系の4107編成の登場により東横線から引退した。
9002編成
9000系の量産車第1号である。最初に大井町線転用をした編成である。室内更新においては9001編成と同様。なお、1次車であるため、9001編成からドア灯の付け根に差がある。5000系の5122編成の登場により東横線から引退した。
9003編成
基本は9002編成と同じである。室内更新では壁紙までのすべての工事を終えている最古の編成である。大井町線転用後は、床材が5000系列と同様の濃い灰色のものに交換された数空きない編成でもある。5050系の5173編成の登場により東横線から引退した。
9004編成
9002編成と同様の形態で、内装も未更新車タイプである。東横線の9000系で唯一室内更新が施されず原形を保ったままの編成であったが、大井町線転用時に座席のみ交換されている。5050系の5174編成の登場により東横線から引退した。
9005編成
東横線の9000系で最後まで残った2次車である。東横線時代にはハッピーアイスクリーム号として、毎年夏に貸し切り臨時電車として車体広告をし、運行されていた編成である。室内更新は9003編成と同様の仕様である。5050系の4104編成の登場により東横線から引退した。
9006編成
東横線時代はTOQ-BOXとして、貸し切り広告統一編成で、虹の絵に音符の絵が描かれていた編成である。当時の東横線を知っている人なら誰しもが一度は見たことのある電車であろう。東急の中では最長期間(21年間貼りっぱなし)の車体広告経歴を持つ編成である。大井町線転用後は、9003編成同様に床材を張り替えており、室内更新も完了している。5050系の5171編成の登場により東横線から引退した。
9007編成
生涯をほとんど大井町線のみで過ごしている唯一の編成である。大井町線デビューであるため、元々5両編成である。2022年には東急100周年記念のラッピングが施された。
室内更新に関しては9005編成同様ですべて完了している。同時に2次車の最終編成でもある。
9008編成
9000系の3次車の最初の編成である。少々仕様変更された部分が多く、それまでの9000系とは大きな差はないがあちこちで簡略化が図られている。帯のでっぱりや、車側灯下のステンレス板の形状など、小さな部分で多くの違いがみられる。内装は未更新車タイプである。5050系の5170編成の登場により東横線から引退した。
9009編成
仕様や室内更新は9008編成と同じである。東横線時代末期の頃に横浜港開港150周年記念電車として、国際信号旗を貼り付けて走行した編成である。
5000系の5118編成の登場により東横線から引退した。
9010編成
東横線で最後まで営業運転で走った9000系である。横浜開港150周年記念電車としてマスコットキャラクターたねまるの広告をしていた編成でもある。東横線時代のこの編成の3、4、5号車を廃車にしたことにより、デハ9300、サハ9700、9800は形式消滅した。内装は未更新車タイプで9008編成と同様である。
5050系の4106編成の登場により東横線から引退した。
9011編成
東横線時代にはファッションブランド「COACH」の貸し切り広告をたびたびしていた編成である。室内の更新がされた最初の編成であり、さらに、新型クーラー本採用時に最初に交換した(6号車以外の両端のみ)編成でもある。
大井町線転用後には床材の張替えも行われている。5050系の5172編成の登場により東横線から引退した。
9012編成
9000系で最初にスカートを付けた編成である。内装は更新車タイプで床材の更新も行われており、9011編成と同形態である。5050系の4105編成の登場により東横線から引退した。
9013編成
東横線時代はTOQ-BOXとして、貸し切り広告統一編成で、シャボン玉絵が両先頭車のみに描かれていた編成である。当時の東横線を知っている人なら誰しもが一度は見たことのある電車であろう。内装は更新車タイプである。
東急の中では9006に続き(田園都市線の8637同様に)、最長期間(20年間貼りっぱなし)の車体広告経歴を持つ編成である。5050系の4101編成の登場により東横線から引退した。
9014編成
東横線時代には9015編成とともに東京ガスの広告をしていた編成でもある。内装は未更新車タイプである。
平成時代に入ってから東急が最初に出した編成でもある。5050系の4102編成の登場により東横線から引退した。
9015編成
9000系の最終編成である。内装は未更新車タイプで9014編成と同形態である。5050系の5175編成の登場により東横線から引退した。
おわりに
今回は東急9000系について少し解説してみました。自分が見てきた中で様々な動きをしていた9000系、大井町線に転用し姿を変えて走っていますが、次回乗るときはこのような点を見ながら楽しむのもいいかもしれませんね。9000系も登場から30年以上がたち、この先も決して長くはないです。ぜひ乗ってみてください。